仮免技能試験、店長の運転やいかに。
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府中試験場 |
21日目 仮免技能試験当日 (続)
店長の番ですよ
運転席のドアを開けて試験車を降りる前走者くん。それと同時に店長が後部座席から降りると、流れ作業のように次の走者の女性が店長の乗っていた席に乗り込みます。
「運転席に乗るところからもう採点は始まっている」のですが、受験者が運転席に乗るときの試験官は、書類を確認したり書き込んだり、前走者に対して試験後のアドバイスを伝えたりと、じっくり受験者の挙動を確認しているようには見えません。受験者の動きも、車体の前までしっかり確認を入れる人もいれば、車体周りも後方もチラ見程度で済ませる人もいます。それでも、「実はちゃんと採点されていた」なんてことがあると損です。店長は、車体の前後ろは軽く見て、ドアを開ける前にわざとらしいくらい後ろをしっかり振り返ってからドアを開けて乗り込みました。ちなみに、「猫がもぐってるかもしれないからクルマの下までチェックする」を実践している人はいませんでした。
運転席に座ってドアをしめ、「よろしくお願いします」と一礼する店長。鬼さん試験官、「では、発進の準備をしてください。できたら教えてください」と端的に言いつつ、前走者くんにアドバイスを伝えています。発進準備に専念していた店長、前走者くんに対するアドバイスはほとんど聞き取れませんでしたが、最後のほうで、「……クルマの運転自体は慣れているみたいだから、さっき言った点を注意して運転するように……」と言われているのが聞こえました。--そっか、前走者くんは、初免許じゃなくて、運転経験のある人だったのかもな。運転技術ではなく、いわゆる「法規走行」の問題だったのかな……--試験官が「では、3階38番窓口で予約して、また来てください」と告げると、前走者くんは去っていきました。お疲れ様でした。
さあ、人のことばかり気にかけていられない、店長の試験本番です。先ほどの乗車時のふるまいに加えて、発進前の準備も採点対象なので慎重に。シートの調整、ミラーの調整、シートベルト着用。ブレーキペダル踏み込んだままエンジン始動して、サイドブレーキを外す。
「準備できました」
「はい、まずは『ならし運転』です。発進して、前に見える青いポールのところで一旦止まってください。ではどうぞ」
発着点からおよそ100メートルは「ならし運転」の区間。この区間は採点対象外です。たった100メートル。時速20キロなら18秒で進む距離。こんな短いところで「ならし」も何もあるかい、と緊張しつつギアをDに入れて発進。余計なことを考えているから発進時のウインカーと確認が見事にすっぽ抜けました。採点されない「ならし」だからセーフでしたが本番だったらかなりの痛手です。やはり大事、「ならし」。
--いかんいかん、集中せにゃ!
ほどなくして「ならし」終了の青いポールに到着。
「では、ここから試験開始です。ご自身のいいタイミングで発進してください。まずは前に見える○番を右です」
--発進合図出して確認して発進……途中までは、ついさっき前走者くんが走ったのを見ていたので道がわかる。まずは最初の停止線で確実に止まって、次に外周路を右折で入る……
店長、最初の右折から緊張しまくりです。およそ余裕なんてものはなく、ただ右に曲がるだけでドッキドキ。そのせいで過剰に慎重になります。
--よし、ちゃんと曲がれた。このあとはしばらく道なり。加速しないと……
そう思うが早いか、鬼さん試験官から注意が飛びます。
「もっとスピード出してください。(今の時速)9キロですよ」
「す、すみません!」
--しまった、加速するのが遅すぎた。注意くらっちゃった……でもまだ1回目!
加速できる状況で遅すぎる場合も減点の対象です。ただし、この「速度維持(課題外速度)」の項目は、1回目だけ、注意のみで減点されずにすみます。
加速を気にしつつ、「坂道発進」、「踏切」と、前走者が走った経路を辿っていきます。そして難関の「S字」。
--練習の終盤では通れることのほうが多かったはず! 進む速度が速すぎても遅すぎてもダメ! ハンドル操作慎重に! 遅すぎず、けどゆっくり、じっくり……!!
かなりゆっくり、コースもギリギリきわどいセンでしたがなんとか通過。そしてお次はさらに難関、「クランク」。
--練習でうまくできた時のことだけ考える! 大丈夫、練習場よりココの方が道が長くて簡単なはず……!
店長の緊張も最高潮。ハンドルを握る手には力がこもり汗がにじみ、ペダルを踏む右足の膝がかすかに震えています。そしてココもなんとかどうにか……通過!
しかしクランクを抜けても安心していられません。試験はまだ続く上、前走者はこのクランクの直後、先に進めず発着点へ戻らされたのですから。
--さっきの人と同じなら、もう少し先の●番で右だったはず……
「▲番を左です」
--やった!先に進めた!
さらに点滅信号の交差点を曲がり、矢印信号の交差点を進み、突き当たって外周路。そして障害物です。
--来た、障害物……練習でも最後まであんまりうまくできなかったヤツ。ウインカー出して、目視確認して、距離を取って、慎重に……慎重に……避け終わったらまた元の車線に戻る、慎重に……慎重に……
練習不足に苦手意識が重なって、すべての動作がガッチガチ。そこに過度な慎重さが加わるモンだからクルマは減速の一途です。
「……(時速)9キロですよ。スピード出してください」
--あああっ、2回目……!! 減点だ……
「す、すみません!」
「ウインカー戻してください」
「あっ、すっ、すみません!!」
障害物を回避したあと元の車線に戻る際に出したウインカー、戻りのハンドルが緩やかすぎて自動で戻らず点きっぱなしになってしまっていたのを、速度維持の注意を受けたことで焦って見落とす……もうふんだりけったりてんてこまい。
されど試験は続きます。とうとう外周路の直線コースに来ました。「速度指定」です。
「速度指定です。50キロで走ってください」
練習ではコースの都合上、40キロまでしか出したことがなかった店長。ぶっつけ本番で50キロの速度指定に臨みます。
--大丈夫、道が長い。このまままっすぐ、一気に加速……40……45……50、よし!
ギリギリでなんとか時速50キロ到達。「50キロで走った」とはとても言えないですが試験としては課題クリアです。
道なりのカーブを減速して通過し、もう1回障害物。さっきもやりましたが、さっきと同じようにしか通れません。となると……
「……もっとスピード出してください」
当然、同じように注意を食らってしまいました。
そしてまた道なりカーブを通って、発着点へ戻る道に誘導されます。店長、緊張のあまりヘトヘト。--指定50キロも障害物もやったけど……コース全部進めたのか……?--コース図もウロ覚えで、どこまで進めたのかもよくわかりません。ともあれ、降りるところまでが採点対象。最後まで気は抜けない。
指定された地点に停車して、降車手順。ギアをPに入れ、サイドブレーキをかけ、エンジンを切る。すべて、やらないで終えたら減点対象です。
降車して、試験終了。
結果、不合格
助手席の窓のそばに行き、鬼さん試験官から結果を聞きます。
「今回、減点超過で終了です」
残念、一発合格、ならず……
そして続く講評。実際に試験を採点した試験官からのアドバイスなので何よりも重要な情報です。
「まず速度ですね。速度が出せていないです。指定の50キロは出せていたけど、同じ幅の道路なのに、ある時は9キロしか出さないってのはおかしいです。
障害物のところでも遅くなってしまってましたね。あの障害物は、路上で路肩に停車しているクルマを想定しているんです。実際の路上であんなに遅いと、他のクルマが走っているから車線変更できないですよ。
それとブレーキですね。踏切の前と、あとココの減速時、急ブレーキ気味でガクッと止まってました。もっと丁寧にブレーキかけてください。
あと、クランクから出る時、少しだけど縁石に後輪が当たっちゃってましたから、そこも気をつけてください」
--速度不足だけじゃなくて、ブレーキも減点あったんだ……あと縁石も……気づかなかった……
鬼さん試験官、見た目は相当怖かったし、話し方も厳しい印象でしたが、教示はタイミングもごく正確でわかりやすく、講評も的確で丁寧でした。厳しいながら、そこには優しさがあるということなのでしょうか。
「では、3階38番窓口で予約して、また来てください」
お疲れ様でした……
減点箇所の考察
試験の結果や点数を教えてくれる自治体もあるそうですが、東京で受験すると、最後のアドバイスはもらえても、点数が何点だったかは教えてもらえないし、試験官が採点で使った成績表ももらえません。なので正確な点数はわからないのですが、試験後のアドバイスから、採点基準に照らして今回の店長の試験を振り返ってみましょう。
まず、一番最初の右折直後のスピード不足。「速度維持(課題外速度)」の項目に該当して10点減点。ですが、この項目は「特別減点細目」といって、前述のとおり1回目だけは減点されずに注意のみで済みます。なのでこの時点では減点ゼロ。
次にブレーキ。序盤の踏切ともう1箇所で指摘されていました。「制動操作不良(ブレーキ)の項目に該当します。この項目も特別減点で1回目はノーカウント。ですが、特別減点は同一項目で2回以上適用されると、1回目の分も合わせて減点されます。「ブレーキ」は5点ですが、2回あったので2回分で10点減点。なお、「ブレーキ」項目の中にも細目が6つあり、今回の減点が、「断続操作(いわゆるポンピングブレーキ)をしなかった」という「断」が適用されたのか、「ブレーキによっておおむね0.4Gの加速度がかかった」という「不円滑」なのかは定かではありません。おそらくは「断」のほうかと思われます。なお、加速度Gですが、一例としてエレベーターの上下動の瞬間にかかる力が、だいたいプラスマイナス0.2Gだそうです。ちなみに二種免許の場合はこの細目の基準値が0.3Gになるのですが、試験の際にGは実際に計測されているのか、不明です。ともあれ、今回は「断」でしょう。店長はこれが減点になることを知らず、断続操作していませんでしたから……
さらにクランクの出口でタイヤが縁石に接触していたという点。「脱輪(小)」で、5点減点。この時点でマイナス15点。なので、まだ試験続行してもらえたんですね。
大きいのはここからです。最初の障害物で「速度維持(課題外速度)」2回目。1回10点ですから、2回目で一気にマイナス20点の減点です。この時点でマイナス35点で試験終了が確定。そのまま続けて指定速度、ふたつめ障害物まで走らせてもらえたのは、戻るのにその道を通るしかなかったからですね。ふたつめ障害物の際の「課題外速度」3回目でさらに10点減点。終了時の点数はマイナス45点の55点だったと思われます。
なお、障害物の際のウインカー戻し忘れ、「合図不履行等(変更合図(もどし))」の適用ですが、これも特別減点細目なので5点でしたが1回のみで減点なし。
参考までに、ならし走行の時に忘れてた発進時のウインカーと目視確認、コレ仮に本番でやってたら、「合図不履行等(発進合図(しない))」適用で5点、「安全不確認(発進)」適用で10点、合わせて15点の減点です。30点までのボーダーラインがスタート時点でいきなり半分。発進時は慌てずしっかり基本に忠実に対応しましょう。
そしてコースですが、店長は後半には入れていたものの、Cコースにはまだ続きがありました。減点超過で不合格なだけでなく、コース完走も果たせていなかったのです。うーん残念。
ヌシ様と反省会
試験終了後、がっくり肩を落としながら3階38番窓口の予約機で次回の試験予約を入れ、受験票をもらって店長は帰ってきたのでした。一番近い日で予約しましたが、約2週間後です。
--まぁ、1回で合格したかったけど、かなり難しいってわかってたし、まぁ、仕方ない。
だってそもそもマトモに運転できていなかったのですから。
今回の試験結果は、もはや点数ウンヌンの話ではなく、もっともっと手前の話です。速度が出せていない。ブレーキができていない。「加速と減速」という基本中の基本がまともにできていない、ということです。マグレでも受かるはずがない。仮に受かっていたらむしろ怖い。きっと試験官も、その点を見抜いていたのでしょう。
さて問題は、次回の試験にどう臨むかです。このままの状態で次回の試験を受けるか、失敗を踏まえて練習するか。
「それで、練習したいって時は、またさいたまでスクールの人に教えてもらえるの?」
事情を聞いたヌシ様が店長に尋ねます。
「うーん、コマ数はまだ残ってるから、予約すればもちろんできる……んだけど、当然、持ってるコマ数を消費しちゃうんだよね……このあとまだ本免もあるから、なるべく取っておきたいってトコなんだよなぁ……」
「ふーん。『加速と減速』、要は単に『慣れ』ってことだと思うから、ウチのししまる号でちょっと練習できるところがありゃいいのにね」
「あー、一応そういう場所もあるにはある、らしいね……詳しく調べてないけど」
「そうなんだ? 調べてみて、できるならそっちも検討してみたら?」
--ふむ……
こうして、店長の免許獲得は次のステージに進むのでした。
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